2016年10月23日日曜日

来店客の分析から分かったこと

11年前に某大学の学生が書いた論文の中に面白いデータを見つけました。ある居酒屋から伝票データを提供してもらい、注文内容を分析したもの。目的は、飲みものと食べ物がどのような組み合わせで注文されているかを調べ、「相性」をを数値化し、効果的なプロモーションの提案を試みること。

この分析の趣旨も面白いのですが、その手前の現状分析がじゅうぶんに面白い。
お客の人数(お一人様か2人組か3人組か…)による注文数と客単価の分析結果の中に、意外な数値があったのです。

1.注文回数は、1組あたりの人数が増えるほど高くなる。

これは実感ありますよね。お店の人を呼んで、注文した数分後に、「オレ、これ食べたいな。スイマセーン!」と注文する。注文したものが届いたその場で、「注文いいですか」と注文を入れる。人数が多いわけだから、当然ですよね。

2.滞在時間は、1組あたりの人数が増えるほど長くなる傾向がある。

1人客の平均滞在時間は70分、2人組客は110分だったのに対して5人組客は188分。これも実感ありますよね。大勢でワイワイやってるわけですから。話は尽きないわけです。

3.客単価は、1組あたりの人数が増えるほど高くなるというような単純な傾向は見られない。

平均客単価は以下の様になっていました。
  • 2人組客:2,935円
  • 3人組客:2,680円
  • 4人組客:3,123円
  • 5人組客:3,375円
  • 6人組客:3,253円
「3人組」のお客さんの客単価の低さは、メニューに何らかの問題があるのかもしれません。なぜかというと、1人あたりの「料理注文数」が少ないのです。
一方、まったく違う角度から考えれば、『この居酒屋には3人で行け!』ということです。同じお店に行って、他の組より安価に、「これでじゅうぶんいろいろ食べたよね」という満足を得ていると考えることもできますから。



誰が「いいお客さん」なのか?


しかし、ボクがすごく意外に思ったのは、「1人客」の客単価です。上にあえて書きませんでしたが、いくらくらいだと思いますか?
平均滞在時間は2人客の64%、4人客の50%ですよ。

 ・
 ・
 ・

グループ客を上回る3,785円です! 

お一人様は回転が速く、客単価が高い。

これを知っているのと知らないのとでは、お店の施策(広告、席配置、メニュー、メニュー表記)はまったく違ってくるはずです。他のお客さんをないがしろにしないよう、注意を払いつつ、お一人様を大歓迎するべきです。

そして課題は3人組客ですよね。大抵、4人分の席を使いますから、ツボ効率的にも...。かといって排除するわけにもいかないので、「3ピースの何か」(3人で分けやすいとか)をメニューに加えるとか、対策の考えようがあるわけです。


もし、お客の人数(お一人様か2人組か3人組か…)による注文数と客単価の違いを知らなかったら、業績を上げるための施策は「闇雲」になってしまうのではないかと思います。


ちなみに、調査対象は約2カ月間の中の35日の来店客で、分析に用いたのは7人以上の大グループを除外(調査の趣旨からサンプルとしてふさわしくないと判断された)した、データに欠損がない630組、1,671人。合計売上金額5,107,411円。



〔文=田中 剛/アミューズメントジャパン 元編集長〕

2016年10月15日土曜日

一次方程式によるシンプルな予測~回帰分析

週刊AJでは何度か、都道府県別のパチンコ設置台数に占める低貸営業台数の割合と県民平均賃金には強い負の相関があるとご紹介しています。昨年6月末時点のデータでは、相関係数はマイナス0・7062でした。今回は、説明を分かりやすくするため、同じデータで「4円貸台数割合」と県民賃金で散布図を作りました(図)。4円貸台数割合はたんなる低貸台数割合の裏返しですから相関係数は0・7062です。ちなみに、7月4日号のコラム(第5回)でも、散布図と相関係数の説明をしましたね。
2変数に相関関係がみられるとき、散布図の点の散らばりの傾向性を示すような直線を、スパッと引きたくなるのが心情です。いま散布図の中に、点の集まりの中をうまく通るような右上がりの直線を引いていますが、これを「回帰直線」といいます。

全部のデータが直線の上に乗っていない限り、どれだけうまく直線を引いたとしても、直線と実際のデータは少しずれます。直線のy軸の値と、散布図の全ての点のy軸の値の「ずれ」の二乗の総和が最小になるよう、計算によって求めた直線が回帰直線です。もう少し急な角度の直線を引けば、直線のy軸の値は神奈川や京都に近づきますが、大阪や愛知など直線のy軸の値と離れてしまう県もでてきます。

この直線は、一次方程式y=ax+bの形で表現することができ、4円貸台数割合と県民賃金の関係は、次のように表せます。
y=0.1714x+6.8436
この式を「回帰式」と呼びます。


回帰式は何の役に立つのか?


これが何の役に立つのかというと、代表的な用途は次の2つで、このような分析を「回帰分析」と言います。
(1)例えば、宣伝費()と売上高()の関係がわかっていた場合、目標とする売上高に対して宣伝費を決定することができます。……制御
(2)例えば、人口()と商店数()の関係が分かっていれば、ある市の人口からその市の商店数を予測することができます。……予測
県民平均賃金()と4円貸台数割合()の場合でいうと、一方の数値がわかった場合、他方の数値を予測することができます。

もし回帰直線、回帰式がなく、「全国のパチンコ設置台数に占める4円貸の台数割合の割合は56・2%」というデータしかなかったら、どの県であろうと4円貸台数の割合は「56・2%」と予測するのが最も自然です。ところが、これでは実際との誤差が大きいのです。
神奈川の実際の4円貸台数割合は67・4%なので、全国平均との誤差は11・2ポイント。先述の回帰式があり、神奈川の県民賃金が33万6千円とわかると、4円貸台数割合は64・7%と予測でき、誤差はわずか3ポイントです。愛知の実際の4円貸台数割合は59・2%なので、全国平均との誤差は3ポイント。回帰分析による予測値は60・4%で、誤差はわずか1・2ポイントです。

回帰式による予測が有効なのは、今回のように2変数(この場合は県民賃金と4円貸台数割合)に相関がある場合です。相関がない散布図にも、計算によって回帰直線を引くことはできますが、予測に用いることはできません。

p.s.
シンプルながら、けっこうパワフルだと思いませんか? 企業内、店内には、まだまだ活用されてい居ないさまざまなデータが眠っているかもしれませんね。
どのデータを使って、何をするのか? それを考えることがマーケティング部門に求められていることなんじゃないかと思います。


〔記事=田中 剛/アミューズメントジャパン 編集部〕

過去30日間の閲覧上位エントリー